心にポッカリ空いた穴
「人間は考える葦である」「クレオパトラの鼻が低かったら世界は変わっていただろう」。
誰でも一度は耳にしたことのあるこうした名言。
これは、ブレーズ・パスカル(1623-1663)の「パンセ」という作品。あまりにも有名な作品なので、パスカルのフルネームをパスカル・パンセと思っている人もいる。
彼は思想家であると同時に、気圧の単位ヘクトパスカルにその名を残すほどの科学者。なので、まるで科学の法則のように合理的で冷徹な視点にたって、人間の心の特徴を明らかにしていく。
パスカルが生きた17世紀のヨーロッパでは、科学が著しく進歩し、この地上世界は人間が誇るあらゆる欲に満たされていた。それを冷静に見つめていたパスカルは、理性こそ万能だという考えには、危うさがあると確信し、人間の弱さを明らかにしようとしたメモ、それをまとめたのが「パンセ」。
なぜ人間は同じ過ちを繰り返すのか—
人間の願望は、自己愛に源を発していることを言及し、自分を認めて欲しいという思いが、生きる原動力になっている。ところがこの自己愛は、時には自慢や嫉妬、羨望を生んでしまい、現実を正しく直視できずその目は曇ると指摘する。
コロナによる自粛で「コロナうつ」になる人が続出。パスカルは「パンセ」の中で、「趣味に打ち込むこともなく、仕事もない状態で、じっと部屋に閉じこもっていると、気分が沈んでいくだろう。人間は何かに熱中していないと生きていけない生き物だ」と言い切る。
しかし、残念ながら際限なく何かに熱中し続けることは不可能。繰り返される熱中と挫折。
「人間の心の中には神以外には満たすことのできない真空(空洞)がある。」と言ったのもまたパスカルだ。