52ヘルツの孤独
一般のクジラが鳴く周波数よりはるかに高い周波数で鳴く世界で唯一の個体のクジラを称して「52ヘルツクジラ」という。「世界で最も孤独なクジラ」とされている。
かくいう私にも思い当たる節がある。幼い頃から、みんなと違う周波数で話していたのかもしれない。いつも浮いてた外れてた。演出家という職業を選んだのも、それが理由の一つだったかもしれない。そこには浮いた人たちばかりがいた。
2021年第18回本屋大賞に輝いた「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこ著)は、家族から虐げられ、恋人の暴力にも苦しむ主人公の女性が、家族の元を離れて移り住んだ田舎町で、虐待を受けている少年と出会い、孤独者同士、しだいに自分を取り戻していく物語です。
孤独、弱さ、悲しみ、後悔・・・。生きることに苦しんでいる人たちのこころに響く52ヘルツ。その鳴(泣)き声は、あまりにも高くて周りの人々には届かないが、孤独者同士だと響き合う。「大丈夫、心配ない。そのままのあなたでいいんです」。